研究概要 |
我々は,超伝導と強いスピンのゆらぎの共存する可能性を持つPdーSe二元系に注目し,先ずPd高濃度側での平衡状態図を確立し,次にそこに見出された5つの化合物の超伝導及び磁気特性を明らかにした.相図の決定には,当補助金によって購入された粉末X線回折用ギニエカメラ,及び金属組織観察用光学顕微鏡が有効に使用された. 超伝導及び磁気特性は,電気抵抗,上部臨界磁場,帯磁率の測定によって調べた. PdへのSeの固溶度は600℃において1.5%あり,Se濃度18〜25%の狭い領域に4相Pd_9Se_2,Pd_4Se,Pd_7Se_2,Pd_<34>Se_<11>が存在する. 後の二者については単結晶を用いて結晶構造を決定し,またPd_9Se_2はPd_4Seを約10μmおきに層状に含むことによって構造を安定化していることを見出した. さらに共晶点の組成のPd.ナD20.7.ニD2Se.ナD20.3.ニD2では液体急冷法によってアモルファス薄膜を作製した. これらのうち超伝導を示したのは,Pd.ナ_<9.ニ>Se.ナ_<2.ニ>(Tc=0.64K),Pd.ナ_<7.ニ>Se.ナ_<2.ニ>(0.53K),Pd.ナD234.ニD2Se.ナD211.ニD2(2.66K)とアモルファスPd.ナD20.7.ニD2Se.ナD20.3.ニD2であった. Pd.ナD234.ニD2Se.ナD211.ニD2の示す高いTcの原因は,比較的強い電子ーフォノン相互作用にあることが比熱の解析から示された. またPd.ナD234.ニD2Se.ナD211.ニD2の電気抵抗と上部臨界磁場は他の化合物に較べて特異な温度依存性を示すが,これらはこの化合物特有の網目状の結晶構造を反映しているものと考えられる. 純粋なPdにおいて存在する強いスピンのゆらぎは,Seの固溶に伴って弱められるけれども,超伝導は0.38Kまでは出現しなかった. PdにTeを固溶させた場合にも同様の結果であった. 一方,超伝導を示したPd_9Se_2,Pd_7Se_2,Pd_<34>Se_<11>のいずれも帯磁率の大きさは,純粋なPdの百分の一程度であって,その温度変化も小さい. 従って上記の化合物では,強いスピンのゆらぎが抑えこまれて,超伝導が出現したものと結論された.
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