無脊椎動物は、殻、内骨格、外骨格など様ざまな上皮性・非上皮性の石灰化組織(分泌物)を形成する。これらの組織は、多糖類・タンパク質の複合体からなる有機基質と、炭酸塩ないし燐酸塩鉱物で構築されている。本研究はこの生体鉱物の微細構造、及び生体結晶と有機基質の複合体からなる殻体構造について、光学・電子顕微鏡を使用して、実施されたものである。 殻体形成機構を解明するために、約20種類の巻貝について殻体内表面の結晶成長を調べた。真珠構造の成長パターンは、多角形の板状体が柱状に累積する成長と、長方形の板状体が鱗片状に重なって成長する場合とがある。交差板構造の成長パターンは二枚貝のものとほぼ同じである。アラレ石と方解石とが同一領域に発達する点も二枚貝と共通している。 とくに、イシダタミなどについて詳細に調べたところ、巻貝類の殻体は二枚貝類のものと共通する点も多いが、最内殻層の発達、方解石からなる透明質稜柱構造の形成、交差板構造・真珠構造の形状など、二枚貝とは異なる点がある。 透過型電子顕微鏡によって、二枚貝類の生体結晶の超微細構造と研究したカリガネエガイなどアラレ石からなる交差板構造の第3次薄板は、単結晶体ではなく、(110)面を接合面とする集片双晶で、その単一の結晶面は数100〜100H以下であることが解明された。さらに、アラレ石からなる均質構造・真珠構造の結晶体も双晶からなることが明らかにされた。 無脊椎動物の上皮性石灰化組織は、すでに下等な原生動物で分化し、それが高等な軟体動物まで受け継がれたものである。外皮としての、石灰質殻層と有機質層が生物進化の過程で分化した。前者の有機基質は糖衣と相同な物質に由来し、さらに無機物質が有機基質の中に代謝の産物として、沈着する機構が獲得されたものと考えられる。
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