研究概要 |
昨年度から引き続いて行ったβ相Cu-Sn合金の時効過程における陽電子寿命測定結果から、これまで示唆はされていたが明らかにされていなかったこの合金の顕著な時効効果に関与する原子空孔の振舞いの知見が得られ、また構造原子空孔の存在も重要な因子であることが分かった。この研究の成果は1986年9月、中国で開催された「形状記憶効果」国際シンポジウムで発表した。その後、Auに3d遷移金属元素のFe,Co及びNiを微量添加した希薄合金を高温から急冷し、それにより凍結された原子空孔の回復過程について、電気低抗の高精度測定と並行して陽電子寿命測定を行い、Auの原子空孔と溶質原子との相互作用について新しい知見を得た。従来の理論においてはこれらの元素はAuの原子空孔と負の結合エネルギーすなわち反発力を持つと考えられていたが、本実験の結果、それとは反対にFe,Co及びNiについてそれぞれ0.35,0.33及び0.20eVの強い結合力の存在が結論された。またこれらの合金の回復過程において、電気低抗変化と陽電子寿命変化で観察される数個のステージは、強く結合した空孔-容質原子対がそのまま長距離の移動拡散を行うというモデルに基づいて定量的に解釈出来た。さらに陽電子寿命測定結果の多成分解析に成功し、各ステージで形成される空孔-溶質原子複合体の大きさと形態が明かにされた。このような微小空孔凝集体に関する知見は他の手法から得ることは困難であり、陽電子寿命測定が極わめて有効であることが確認された。また近年、高集積度回路素子の製造上Siウエファ中に存在する微小欠陥が重要な問題になっているが、その微小欠陥の性質については不明の点が多い。現在、予め電気抵抗測定により局部的に異常の存在が確認されているウエファを準備して、その陽電子寿命の測定を行い電気抵抗異常との対比を行う実験の準備を行いつつある。
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