当初計画に従い、強誘電性液晶(FLC)における表面安定化(SS)状態の構造および状態間スイッチング過程の解明を目的に、研究を行ってきた。この両者は密接に関連しており、実際にはスイッチング過程の詳細な研究がSSFLC状態の構造を明らかにする重要なカギとなった。SmA相が存在する場合には、配向ベクトルがセルの上半分と下半分とで互いにぶつかり合うように回転するため、かならず内部回位の発生・成長を伴うスイッチング過程が最も普通に起こっており、従来の定説すなわち全体が同一向きに回転するという過程はむしろ例外的であることが確認された。この意外な事実の必然的な結果として、C-配向ベクトルが界面で選択的にプレティルトしてなければならないことが導かれた。 一方、クラークらは高分解能X線回折の実験から、スメクチック層が傾いていると結論し、第11回国際液晶会議(バークレー、1986年夏)で発表した。我々は「傾き」ではなく「曲がり」でないと上記の選択的プレティルトが説明できないことを指摘し、会議終了後研究分担者の竹添がコロラド大にクラークらを訪ね、長時間議論したが、その場では納得してもらえなかった。しかし、ジャパン ディスプレー(東京、1986年秋)では我々の考えを全面的にとり入れ、層の「く」の字変形モデルを提晶した。 C-配向ベクトルのこのような選択的プレティルトが、ツイストの2状態問に色差を与えることは、4×4マトリスク法により理論的に、分光法により実験的に裏付けられた。また、回位に修飾された転位であると考えていたいわゆるジグザグ欠陥は、層の「く」の字変形の食い違いと考える方が妥当である。詳細は第7回社会主義国液晶会議で発表の予定である。なお、交付申請書に記した傾き角の問題は実験できなかったが、その代り粘性測定法を確立できた。SmA相が存在しない場合についても、予備的な実験を行った。
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