光波による大容量の情報伝送と情報処理の用途としてトランジスタの役目を果たす光増幅器は各方面からその出現が望まれていた。その状況に鑑み、2つの発振器を適当な素子によって結合すると線形な増幅が得られることを理論的に見いだした。そして、光より取り扱い容易なマイクロ波領域において予備ないし模擬研究を行ない、その原理を理論的・実験的に確認した。その基盤の上に立って光波増幅の研究を進めた。 2つの領域を比較するとき、マイクロ波発振器と半導体レーザーとはその発振原理及び特性は大きく異なるが、波動としての側面から見ると、両者は非常に良く似た同期特性を持つ事が理論的及び実験的に判明した。違いは、マイクロ波に比して光波は非常に周波数が高いので、外部環境および条件の変動に敏感で不安定になり易く、恒温装置を製作し、レーザーの発振周波数をかなり安定化させる必要があったことである。当時はまだ良好な単一モード発振レーザーが容易に入手できなかったことと、集積型ではなく通常の光回路系を用いたので、レーザー間の結合距離が長く、安定な増幅を得ることが困難であったが、この原理による光増幅が実現できる可能性は確認できた。 次の段階としては、レーザー発振周波数のさらなる安定化と、回路系の超小型化であるが、その計画途上、海外において全く異なる原理による光ファイバー増幅器が開発された。当該光増幅器は、それとは異なり単一周波数動作や超小型という特徴を有するが、ほかに光増幅器が開発された以上、実験装置を拡充してこの増幅器をさらに実用的な研究に向けるのは大学としては得策でないと判断された。 そこで、その増幅原理を応用して将来嘱望されている光計算機に適用できる光論理素子実現の研究へと歩を進め、光フリップ・フロップ記憶素子を提案し、その研究も付け加えた。
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