研究概要 |
半導体レーザーは小型,軽量,小電力という他のレーザーにない大きな長所を持ち、計測や通信の分野で実用化されつつある。しかし、発振周波数が温度や電流の微妙な変化の影響で大幅に変わることやスペクトル幅が数十MHzと広い点が問題として残されている。従って、レーザー光のコヒーレンスを十分に生かしたセンシングや光通信ではこれらの欠点を克服する必要がある。我々は、原子の飽和吸収信号を半導体レーザーを用いては最初に観測することに成功し、このドップラー広がりのない鋭い信号を利用して、レーザー周波数の超高安定化をめざして研究を行ってきた。その結果δf/fが【10^(-13)】という極めて高い周波数安定度を得ることができた。本研究では、この様な周波数安定化半導体レーザーシステムを小型化し、可搬な物とすることを目的としている。従来の飽和吸収分光を利用する方式では、吸収線の中心に周波数を固定するために、レーザー周波数を微小変調し位相検波することにより吸収線の微分形を得、これを誤差信号としてレーザー電流に帰還する方法を採ってきた。本研究では周波数を直接変調しないでも誤差信号が得られる新しいレーザー分光法を開発し、それを半導体レーザーの周波数安定化に利用した。原子への入射光を円偏光にしその偏光方向を変化する方法、また原子に交番磁場を加える方法により誤差信号をうることができることがわかり、この鋭い信号を用いた周波数安定化の実験を行い従来の方法を上回る安定度を得た。レーザースペクトルの狭帯域化については、ファブリペロー干渉計で、瞬時周波数を測定し注入電流に帰還をかける方法を開発した。この方法で狭帯域化されたレーザーを先の手法を用いて安定化する予定である。光マルチバイブレーターについてはごく最近、Naと色素レーザーを用いて発振を確認した。今後はCsと半導体レーザーの組合せでも実験する予定である。
|