研究概要 |
Ni過剰TiNi合金(Ti51〜52at%Ni)を拘束条件下で時効すると全方位形状記憶効果が現われる。本研究はこの発現機構を金属学的に解明することを目的とした。このためTi-51および52at%Ni試料を用い、種々の拘束時効条件下での形状記憶効果を調べ、その原因を光学および電子顕微鏡観察によって明らかにした。得られた結下は以下の通りである。 1.この合金のTTT図を作製し、300〜600℃時効で生成する折出物は【Ti_3】【Ni_4】(正確には【Ti_(11)】【Ni_(14)】),【Ti_2】【Ni_3】およびTi【Ni_3】の3種であり前2者は準安定の遷移相である。 2.全方位形状記憶効果の発現は、徴細な【Ti_3】【Ni_4】だけの分酸折出の場合のみ可能で、【Ti_3】【Ni_4】粒子が大きく成長していて粒界面が非整合となったり、【Ti_2】【Ni_3】の折出が始まると全方位形状記憶効果が現われない。 3.【Ti_3】【Ni_4】の結晶構造は菱面体(a=6.72【A!゜】,α=113.9゜)であり、原子配列は規則状態である。 4.曲げ拘束板状試料の内側(圧縮応力側)と外側(引張り応力側)では、晶癖面【{111}_p】のレンズ状【Ti_3】【Ni_4】折出物に著しい異方性がある。5.折出物【Ti_3】【Ni_4】の長軸は応力軸に対し、圧縮応力側では垂直方向に、引張り応力側では平行になる。 6.試料の冷却中に生じる中間(R)相およびマルテンサイト(M)相の成長方位は、折出物と母相との間に生じる界面歪み、特に折出物の短軸方向の歪みを緩和するために最もよい方位である。このため、折出物のまわりに単-バリアントをもつR相が成長した後マルテンサイト相が現われる。この結果、格子定数の差により冷却に伴い曲げ拘束試料の圧縮応力側は伸び、引張り応力側は収縮するため試料の形状は温度降下とともに自発的に変形し全方位形状記憶効果が発現すると解釈される。
|