昭和60年度に続き軌道放射光を用いた小角散乱測定を行った。その主な成果は3項目に別けることができる。すなわち(1)予備時効を行ったAl-Zn合金をGPゾーンの固溶限以上で復元すると、ゾーンは2段階のステージに従って完全に溶解する。最初のステージではゾーンのサイズは変化することなく、ゾーンの溶質組成が減少する。次にゾーンのサイズの縮小が起る。この実験より求められた知見は後で述べる理論的考察とよい一致を示した。(2)試料を固溶限以下で復元すると、最初は(1)で述べたと同様の構造変化を示すが、ある時間を越えると、その温度で準安定な固溶限で決められるゾーンの組成に近づく。この過程ではゾーンの粗大化が進行することが認められた。(3)予備時効した試料を室温より一定速度で固溶限温度以上まで加熱する過程での構造変化をその場測定した。他DSCにより同一条件で熱分析した結果と合せて、この過程の構造変化を考察した。比較的低温の領域ではゾーンの体積分率は一定であるが、積分強度が変化する。これはゾーン組成が変化することに対応しており、比熱変化の傾向ともよく一致した。高温の領域では拡散が速いため、ゾーン内の組成勾配は非常に小さくなり、ゾーンの縮小によって熱平衡に近い母相の溶質濃度が達成される。この過程は移動界面を考慮した拡散方程式を解いて得られる理論的結果とよい一致を示した。以上の実験結果およびその考察以外に、イジングモデルを用いたモンテカルロ計算により復元過程について検討を行った。イジングモデルは正則溶体モデルと同等のものであり、実験とは定量的な一致は得られないが、定性的には上述の3項目の実験事実を再現することができた。復元過程は非平衡な遷移過程であるが、ゾーンと母相の界面で局所平衡が常に成立すると仮定することにより、本研究で得られた実験事実を説明することができる。
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