研究概要 |
トウ割れは、溶接止端部(toe,トウ)に発生する低温割れの1種で、ルート割れとともに高張力鋼の溶接施工時に起こる重要な割れである。しかし、実施工時の発生頻度がルート割れにくらべて少なかったため、割れの成因などについては、余り研究されていない。最近は高張力鋼の船体すみ肉溶接や、圧力容器用の低合金鋼厚板溶接で多層溶接部にトウ割れ発生の問題があり、注目されている。本研究は、多層溶接部のトウ割れを再現するための試験装置を試作し、これを用いてトウ割れ発生に及ぼす各種要因の影響を実験的に明らかにするために行ったものである。 試作した試験装置は試験庁の一端に曲げ荷重を加えた状態で、浅い溝に多層溶接ビードを置きながら、下面から水冷するものである。この場合多層溶接部の最終ビードの止端部には拘束と熱応力の重畳効果により、大きい引張ひずみが生じてトウ割れが発生しやすくなる。供試材には圧力容器用低合金鋼など4種と、溶接棒4種を用い、種々の要因を変化させて実験をした。 割れの有無を浸透試験で調べ、割れの検出された試験片は破面形態を走査型電子顕微鏡で観察するほか、ミクロ組織、硬さなどをしらべた。割れの多くは最終層第1パス側の止端部に発生し、殆んどが結晶粒界を進んでおり、明らかにトウ割れであった。乃ち、本装置は簡単にトウ割れを再現できる方法として、きわめて便利なことが確められた。各種要因としては、止端部の応力集中、拘束は割れを著しく助長し、予熱は割れ減少に効果があった。また溝の深さは4mm程度で最も割れ長さは大きい。鋼では最も強度の高いA533の割れ傾向が大きいが、それと同程度の強度の溶接棒を用いた時は、割れ傾向は減少した。以上の結果から、トウ割れ発生要因として、従来の水素以外の影響についても今後一層検討する必要があることなどが示唆されている。
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