研究概要 |
凝集相におけるイオンの物理化学的挙動に関する研究は立ち後れている. この主因は, 凝集相のイオンの挙動を正確に捉えることのできる適当な方法が少ないからである. 本研究では, イオンを含む液体に高電場を印加し, 液体中のイオンをクーロン反発により気相に抽出し, 検出する. これにより液体中でイオンが関与する現象を総合的に研究する. 具体的には, イオンの溶媒和状態, 溶媒効果, 凝集相でのイオンの反応挙動, 電子の溶媒和状態, などに関する情報を得る. 分子科学的な立場からイオンの溶媒和状態に関する情報を得ることを目的に, 高圧質量分析計を用いて, クラスターイオンの熱力学的安定性, 構造, および反応性についての検討を行った. ハロゲン化物イオンのうちF-イオンは溶媒分子と共有性結合を形成し易いが, 他のイオン(U-, Br-, I-)は主に溶媒に静電的に溶媒和されることが分った. 水は種々のイオンに対する優れた溶媒であるが, これは水和した水分子がイオンとの相互作用でさらに分極し溶媒和エネルギーを高めるためであることを明らかにした. アルコール類は第一溶媒和殻の相互作用が水よりも大きいが, 水に比べて促進効果が小さくそれだけ水に比べて溶媒和エネルギーが小さくなる. プロトン化した分子BH^+の水和エネルギー(AG6)と分子Bのプロトン親和力にほぼ線形関係が成立つことを見出した. これから, プロトン親和力の大きい分子程, 電界により気相へ抽出し易いことが分る. これは, プロトン親和力の大きい分子が対象となる医薬関係において, 本法が分析手段として有用であることを示唆する. 液体中に存在するイオン電界脱離により気相に抽出し, 質量分析を行った. 観測されたイオンは擬分子イオンから成り, イオンの抽出過程が極めて穏やかであることが分った.
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