研究概要 |
昭和60年度3/4半期に購入したポーラログラフ装置は、本研究に極めて大きな効果をもたらした。その内容を以下の4項目に記す。 1.有機マグネシウム試剤(ArMgBr,ArN【(MgBr)_2】,ArNHMgBr,ArSMgBr,ArOMgBr)の芳香族カルボニルおよびニトロ化合物との反応において、試剤の一電子酸化電位と基質の一電子還元電位との組合せによって、反応様式が付加・縮合・置換の何れかに拘わらず、正常生成物と異常生成物との收率分布がほゞ規定されることが明らかになった。さらに、2.みかけ上例外的な場合についても、反応初期の基質から試薬マグネシウム原子への配位による基質または試剤の電位の変化(実効電位)を考慮することにより、上記の相関々係が成立すること、3.この相関は、ベンゼン系カルボニルおよびニトロ化合物と上記5種のマグネシウム試剤の反応の機構論および分子軌道法的解釈に貢献し、さらにそれらの反応の応用における生成物の收率予測に役立つこと、4.基質がベンゼン系以外のシクロペンタジェニル基やC=C基をもつ場合には、他の要素ーたとえばArN【(MgBr)_2】試剤の反応では一電子移動につづく不均化によるニトレン様反応種の寄与ーが無視できなくなること。 以上が、本研究課題のうち「電気化学的」手法による大きな成果の概要である。「熱化学的」手法についてはT.Holm教授(デンマーク工科大)を訪問し検討した結果、上記5種の試剤のうち電子供与能が最強のグリニャール試剤については有効であるが、本課題で中心的に研究されたArN【(MgBr)_2】試剤は4番目の弱い電子供与体であるため、現在最も信頼性のある同教授の測定装置でも反応熱の検知ができず、残念ながら適用不可能であった。今後、電気化学的手法の活用により、検討する基質の範囲を拡げ、反応理論の確立につとめる計画である。
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