研究概要 |
本研究では、鉄合金におけるミクロ偏析をはじめとする凝固時の諸現象を解明する上で重要な因子の一つである溶質の平衡分配係数について測定ならびに熱力学的考察を行った。まず、Fe-P2元系ならびにFe-P-C3元系合金におけるりんの平衡分配係数を固相・液相の平衡共存相を急冷し、固相部、液相部りん濃度をEPMAで分析する方法で測定した。その結果、Fe-P2元系合金におけるりんの平衡分配係数の温度依存性を明らかにすることができた。さらに、多成分系合金における平衡分配係数の溶質間相互作用による変化を示す分配相互作用係数を溶体熱力学を基にして導出し、それを用いてりんの平衡分配係数の炭素濃度による変化を明らかにした。次に、ステンレス鋼の基本系となるFe-Cr-Ni系合金における各種Cr,Ni濃度に対するNi,Cr,Si,Mn,Moの平衡分配係数を静止界面法(温度勾配をもつ炉内に試料を設置し、試料の一部を溶解して、固液界面を作成し、急冷後、溶質濃度をEPMAで分析する方法)で測定し、溶質元素の平衡分配係数のCr,Ni濃度依存性を明らかにした。最後に、従来実測例のないNi基合金における10数種の溶質元素の平衡分配係数を、Fe-Cr-Ni系合金の場合と同様の実験方法を用いて実測した。さらに、それらの結果を基にして、鉄族基2元系合金における溶質の固液間平衡分配係数を求める理論式を溶体熱力学ならびに弾性連続体理論を基にして導き、その結果、溶質の固液間分配を支配する因子を定量的に評価することができた。以上の結果の一部はすでに日本鉄鋼協会講演大会において口頭発表され、また学会誌(Trans.ISIJ)、日本学術振興会資料にもすでに掲載されている。
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