研究概要 |
工業化社会の食生活で問題となる種々の生体異物の栄養代謝的影響に関し、今年は特にアスコルビン酸(AsA,ビタミンC)の代謝、コレステロール(chol)代謝に重点を置いて研究し次のような成果を得た。1)生体異物によるAsA要求量の変動:PCB,DOT,ペントバルビタールなど種々の生体異物の投与によってラットのAsA合成能、代謝回転は著しく促進されることを前に報告したが、AsAを合成できない人間では生体異物の摂取によりビタミンCの要求量の増加することが推定される。この点を最近発見された遺伝的AsA合成不能ラット(ODラット)を用い詳細に研究した。先づ、ODラットがAsAを合成できない理由が人間と同様にグロノラクトンオキシダーゼ欠損によることを明らかにし、ODラットの通常条件でのAsA必要量が飼料中300ppmであることを示した。しかし、PCB摂取条件では肝AsA濃度は有意に低下した。また、PCB摂取による肝薬物代謝酵素の誘導について検討し、チトクロムP450などの最大誘導のためには通常必要量よりはるかに高い1,000ppmのAsAが必要であることを示した。環境化学物質、薬物などを摂取する機会の多い、現代人のビタミンC要求量を考える上で重要な知見である。2)生体異物による血清コレステロール(chol)上昇機構:生体異物摂取でかなり共通して高chol血症の誘導されることを見出したが、血清cholの上昇に伴って尿中カテコラミン排泄が増加すること、カテコラミンの投与で血清chol濃度が上昇することを示した。さらに、複数のα-遮断剤を用い、生体異物によるchol合成の増加がα-受容体経由である可能性を示した。β-遮断剤では影響がなかった。カテコラミンの母体であるチロシンの過剰投与でも血清chol濃度は上昇し、HMG-CoAレダクターゼの上昇など、生体異物投与との類似性が示され、機構の解明に役立つものと考えられる。
|