研究概要 |
シイタケ栽培のホダ木に寄生し, その栽培に被害を与える木材腐朽菌トリコデルマ属, ヒポクレア属の菌類に焦点を当て, それらから, 抗菌, 免疫抑制活性を示す成分を単離し, それらの化学構造を決定し, さらに構造と生物活性との相関性ならびに菌相互作用に関係する化学物質について研究した. まず, 抗シイタケ菌発育阻害作用を指標にして, 活性成分を検索し, トリコデルマ属菌の培養液から, 分子量約1000のトリコポリン類と分子量約2000のトリコスポリン類が単離され, いずれもペプチドであった. トリコポリン類は, N-末端が炭素11個の分岐脂肪酸残基で, C-末端が新ジアミノアルコール, トリコジアミノールで保護され, その間は9個のアミノ酸残基からなっている. トリコスポリン類は, N-末端がアセチル基で, C-末端がフェニルアラニノールで保護され, その間は19個のアミノ酸残基を有している. なお, オキシ脂肪酸を含む新デプシペプチドも得られた. ヒポクレア属のオオボタンタケからは, トリコスポリンと類似のヒペルシンB類が得られ, C-末端のアミノアルコールはバリノール, イソバリノールであった. これら3種のペプチド類の化学的な特徴は, 脂溶性であり, 異常アミノ酸, α-アミノイソ酪酸を高比率で含むことである. 免疫抑制作用は, トリコデルマ属菌6種について検索, 4種の菌株に活性が認められ, いずれもトリコポリン含有画分であった. 合成トリコポリン類縁体も強い活性を示した. 脂肪酸残基の欠如した遊離のアミノ基を有する誘導体には全然活性がみとめられなかった. この現象は, 抗菌活性やラット肝臓ミトコンドリアにおける脱共役作用においても同様に観察された. 菌相互作用によりシイタケ菌は新不飽和脂肪属アルコール, レンチアレキシンを生産する. これを指標にして害菌抵抗性のシイタケ菌株の選抜に用いることが可能となった.
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