研究概要 |
本研究は遷移現象のメカニズムの解明の手がかりとなるための基礎的研究の第一段階として, 地表面植生がどのような環境要因のもとに成立していて, 交替する次の植生の成立のためにどのような役割を果たしているのかを, 生態学的に明らかにするために遂行された. 研究は, 乾性一次遷移の初期とみられる富士山悪高山帯の無植生地を含む森林限界附近の各種の植生地域と, 長野県軽井沢町の浅間山溶岩の影響を強く受けている二次遷移初期の裸地から夏緑林, カラマツ実験團場の二地域で主に行われた. この結果, 一次遷移初期の裸岩に先駆的に出現する蘚類のシモフリゴケは, 厳しい水分条件下で水分の利用にあたって有利な光合成特性を持ち, また遷移のいろいろな段階で出現する蘚類3種の光合成・呼吸特性もまたそれぞれの遷移過程の水分・光条件によく適合していることが明らかになった. 森林限界から裸地への木本の芽ばえの進出や定着は, 森林からの距離や水分・栄養条件との間に動的な関係があり, 先駆植生である蘚類や地衣類の木本稚樹のための発芽床としての役割が推察された. 浅間山溶岩地の裸地やススキ草地には, 次植生と予相されるカラマツや夏緑林の稚樹の多くがすでに用意されており, 6年間では個体数も増加し木本化へと進行している傾向が認められた. カラマツ実験林における塩類収支は, 降水によって供給されるわずかな窒素を有効にとり込んでいることが明らかとなった. またカラマツの成長にともない大形土壌動物は量的に増加し多様化した. 土壌動物の多様化と土壌有機物の諸条件との間には相関関係が見出された. 遷移初期の塩類や有機物の少ない環境下でカラマツ林は塩類の流れや土壌形成のための初めのターミナルとして重要な役割を果たしていることが明らかにされた. 今後はこの課題をさらに体系化するとともに, それぞれの問題をさらにくわしく深く解析してゆく所存である. 研究目的はほぼ達成された.
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