本研究は、人工染色体の作成による新しい遺伝子発現系の開発を目的として行なわれた。特に、選択マーカー、自律的複製配列等のクローニングによる新しい宿主-ベクター-系を確立した。その為、植物細胞中での発現ベクターの作成、DNA導入条件の決定、形質転換体の選択、遺伝子解析も併せて行なった。まず、ベクターとして、pBR322由来のものを用い、植物細胞中で発現可能なキメラ遺伝子(カナマイシン耐性)を作成した。すなわち、プロモーターとして、Tiプラスミド由来のノパリン合成酵素、また、カリフラワーモザイクウィルス(CaM【V】)のgene【VI】のものを使用した。構造遺伝子としては、バクテリアトランスポゾンTn5に由来する。ネオマイシンリン酸化酵素(NpT-【II】)を用いた。これらのキメラ遺伝子をpBR322とSaの複製開始点をもつプラスミドに導入した。さらに、もう一つのマーカー遺伝子として、ノパリン合成酵素そのものをベクター上に付加した。また、植物細胞でのプラスミドの複製を高めることを予想して、タバコ核起源のGrs断片を持つベクターも作成した。これらのベクターは、全てE・caliで増殖させ、精製した。宿主植物として、イネおよびタバコのプロトプラストを用いた。DNAの導入は、ポリエチレングリコールを用い、いくつかの形質転換クローンを得た。タバコの場合は、植物体を再分化させ、後代検定を行なった。タバコの形質転換体では、導入した遺伝子は、主として単一の染色体に取り込まれ、メゾデル遺伝する事が明らかになった。また、非選択のマーカー遺伝子は同一染色体上に存在し、安定した遺伝も確認された。イネにおいては、外来DNAは、特定のDNA部位を利用して、宿主ゲノムに組み込まれる事が明らかになった。
|