61年度は3年継続の本研究責の2年目に当る。60年度は富山県と北海道の西黒沢期(第三紀中新世中期)の地層の調査と試料の採取を行い、61年度はさらに青森県、秋田県、山形県、新潟県、富山県、石川県等の西黒期の層準の試料の採取を行った。これらの試料はすでに空内での処理を終え、一部はすでに検鏡も完了した。これらの結果に次年度の補足的な調査結果を加え、その総括を行うのは62年度末以降になるが、すでに本研究の中心地である富山県の黒瀬谷層の結果については分担者とともにこれまでに得られた成果をとりまとめ公表した。その要点は次のとおりである。 1.黒瀬谷層の花粉組成は暖温な古期温を示すものであり、東北日本の新芽三系の花粉層序のうち、NP-2帯(15〜16Mc~)に属するものである。 2.黒瀬谷層の下位の層準からはマングローブ植物の花粉が多産するが、とくに栃津川流域や神通川流域の春日からはExcoecartaやSonneratiaの花粉が高率に産出する。 3.当時の栃津川流域や春日付近には黒瀬谷期に存在していた古神通川の河口のデルタをはさんで、その両側の海浜付近に位置していたものと考えられる。このような場所はマングローブ沼が形成されるには好適であった。 4.黒瀬谷層から産出するマングローブ植物花粉の組成は現在のマングローブ林と比較すると少なくとも西表島次西のものに対応する。これは黒瀬谷層の貝化石群集の組成とも調和するものである。 5.古神通川の河口付近に存在していたであろうマングローブ沼には、そこの海側から陸側にかけて、Sonneratia.Avicennia(砂泥質部)/Rhizoohora(泥質部)→Bruaiera(ときにCeriopus Sevpiphor Nvoaを交える)→Excoecariaと一連の群落がマングローブ林を構成していたものと推定することができる。
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