研究概要 |
本年度はポーランド,ユーゴ,オーストリア,インド,ネパールでソバの研究調査を行う機会があり、ソバの栽培,分布に関して多くの知見を得るとともに、多数の集団(在来品種)の研究用標本種子を入手出来た。 1.野生ソバ 新たに採集した西ベンガル,東ネパール,クマオンの野生ソバはいずれも四倍体であった。形態的特徴とも合せ、(1)中国産二倍体,(2)タイ北部四倍体,(3)インド東北部四倍体,(4)ネパール産四倍体,(5)カシミール四倍体の5群に分けて考え、今後詳しく調査研究する。 2.ダッタンソバ 世界各地の60集団について形態調査とアイソザイム変異の調査を行った。昨年度指摘したように、世界のダッタンソバは形態とIDH変異により大きく2群に分けられる。しかし、不思議なことにアロザイム種内変異は極めて少なく、LAP遺伝子座で局地的に突然変異で生じたと思われる変異がムスタン,ヤルサ附近,ブータンで見つかっただけである。粒色,粒重,草丈,開花期に顕著な集団間差異が見られたが、地理的勾配は見られず、高度,農業条件への適応や伝播に伴う偶然によると思われる。 3.フツウソバ これまでソバには形態的品種分化がほとんどないとされてきたが、世界的に見て分布の末端であるアルプス以南のヨーロッパで白色粒ソバ,有限花序ソバの品種分化,インドのクマオンで野菜用極小粒品種が分化していた。アロザイム変異から見ると中国からネパールにかけての地域が変異に富むが、いずれが変異の中心地であるかは判らない。ヒマラヤでは西へ行くに従い、変異を失っていく(ADH 6-PGDH-1 PGM-2など)。又ヨーロッパのソバも、それから由来したと考えられる中国北部のソバに比べると変異を失っており、特にアルプス以南(ユーゴ,イタリア)は世界中で最もアロザイム変異が少ない地域であることが判明した。
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