研究概要 |
世界的な規模のソバ, ダッタンソバ, シャクチリソバの地理的分布の調査と標本収集につとめた結果, インド, ネパール, ブータン, 中国, 韓国, 日本及びヨーロッパ諸国における分布の実状がほぼ明らかになり, それぞれ148, 88, 29の標本(系統)を集めることができた. 収集した標本についてアロザイム変異と形態変異を調査した. ソバの栽培集団は他の他家受精植物より多くのアロザイム変異を保有しているが, 集団間ではあまり分化しておらず, ネパールから中国, 日本を含む広大な範囲の集団がほぼ同じ遺伝的組成を持っており, 遺伝的分化は分布の末端であるヨーロッパとインド西部で見られた. 変異の中心地は中国南部からインド東部の地域であり, そこではバビロフの指摘するような品種の多様性という型でなく, 集団内の多様性として変異を保持している. これはソバの栽培集団が非常に大きく, 又任意交配集団であるという特性と集団間の移住によって説明される. ソバ栽培が伝播していったであろう道筋は, アロザイム頻度の変化や消失に見ることができた. ダッタンソバは別種とされる変異が出現するほどにまで, 形態は変化していたが, その自殖性から期待される集団間のアロザイム変異はほとんど見い出せなかった. ダッタンソバの中国, ヨーロッパへの伝播の過程はアロザイム及び形態の変化から推測することができた. シャクチリソバは二倍体が中国, 四倍体がタイ, インド, ネパールに自生していた. 四倍体集団は主として栄養繁殖によっているように見えるが, アロザイム変異からみると種子繁殖も重要な役割を果していると考えられる. 本研究によって栽培及び野生ソバ集団における変異の保有と地理的分布, 栽培の伝播についてはいくつかの重要な知見を得たけれども, 栽培ソバがどの野生種から起原したかという問題は, 今後の研究を待たねばならない.
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