園芸作物、とくに果実を用いてエチレンの生成に伴なう青酸代謝について調査を行った。クリマクテリック型果実は成熟に伴って急激な呼吸の上昇とエチレン生成がみられるが、この時シアンを代謝する酵素であるβ-シアノアラニン合成酵素活性も急激に増加することが明らかとなった。一方、非クリマクテリック型の果実は成熟に伴って呼吸の上昇もエチレン生成の増加も認められないが、β-シアノアラニン合成酵素活性の増加も認められなかった。しかしながら、非クリマクテリック型果実でも老化する過程では、わずかにエチレン生成の上昇が認められ、それに伴ってβ-シアノアラニン合成酵素活性の増加も認められた。また、リンゴ果実を切り刻むと傷害エチレンの発生が認められるが、それに伴ってβ-シアノアラニン合成酵素活性、シアン含量の増加が認められた。組織中のシアン含量を測定するのに、組織のホモジュネートを直接【Br_2】でブロム化して、BrCNをECDもしくはFTDがスクロマトグラフを用いた。従って、本研究における生体内のシアン含量は必ずしも遊離のシアンだけを表わしているとは言えない面がある。そこで、更にシアンの局在性を調査したところ、本方法で測定されるシアンの大部分は膜構造に結合しているらしいということが分った。また、クリマクテリック型果実では成熟に伴って上昇する呼吸はシアン耐性呼吸径路が働いているとされているが、本研究の結果より、このシアン耐性呼吸はβ-シアノアラニン合成酵素活性の増加と密接に結びついているように思われた。 以上の結果より、植物体におけるエチレンの生合成には青酸代謝が密接に関連しており、窒素の代謝という点からみるとエチレンの生合成はアミノ酸代謝の一部であると言える。今後、エチレンの生理作用に関しては、その作用点、代謝という面からの研究がなされる必要があると思われる。
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