研究概要 |
昆虫における多細胞体制の初期構築は, 成熟分裂から接合核形成までの過程と発生運命の決定から体制構築までの過程からなる. 前者では, 多核発生を防ぐための遺伝的制御機構が不可欠であり, 後者では体節構造や発生時期を制御する遺伝的機構が不可欠である. 本研究では各過程においる突然変異遺伝子を用いてカイコの多細胞体制の初期構築を解析し以下の知見を得た. 1.カイコの卵では受精膜の形成などによる多精拒否が起こらず多数の精子が卵内に侵入するため, 1個の卵核を残し他の3個を極核として不活性化する機構が多核発生防止の前段の機構であり, この機構を人為的に崩壊すると多核発生が起こりキメラ個体を生ずる. この機構が遺伝的に崩壊しているのがmo系統であり, 本系統では卵形成がやや遅延し卵核の位置などに異常がみられた. また, カイコの成熟分裂が前還元型であることも判明した. 2.多核発生防止の後段の機構としては, 接合核形成後に残存する精核の発生を抑制する機構が不可欠で, この機構が欠落した突然変異系統がmo-l系統である. mo-l遺伝子はホモの雌個体の次代卵期において遅発発現しモザイク卵を形成とするが, 雄核の異常発生が高い致死性を示していた. 3.発生運命の決定機構についてはE突然変異群と正常系統のモザイク個体の発生パターンの解析から, ショウジョウバエのホメオボックスに相当する機構が存在し, 体節分化の方向に腹部第8節を中心にする変極性がみられた. 4.体制構築の過程に関しては, Bu,pndなどのモザイクの解析から, 背面閉鎖の際に位置情報とその相互認識の機構が機能することと, 発生時期の制御が単純な遺伝子的支配を受けていることなどが明らかになった. 5.多細胞体制の初期構築に異常を示すものは致死性が高く生殖不能なものが多い. そこで致死遺伝子をもつ精細胞を正常蚕に移植し, 遺伝的解析を行う系を開発した.
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