カイコ核多角体病ウイルス(カイコNPV)の増殖する樹立細胞株を検索し、ウイルスの定量やクローニングのためのプラーク法を確立した。ストックよりプラーク純化したT3株を標準株とし、ウイルスDNAを、pBR322やpUCのプラスミドにクローニングし、全DNAをおおう遺伝子ライブラリーを作成した。各DNA断片に関して二重消化等により遺伝子地図を作成し、更にハイグリダイゼーションにより、ウイルス全体の遺伝子地図を作成することができた。 全体のDNAの長さは約130Kbであり、ほとんどがユニークな塩基配列で占められていたが、1.5〜2Kbにわたる繰り返し配列を含む部分がゲノム中に4〜5ケ所認められた。 多角体遺伝子を、感染末期より合成されたcDNAをプローブとして検索しその位置を同定することができた。多角体遺伝子およびその前後の塩基配列をジデオキシ法により決定した。これをAutographa californica NPVの塩基配列と比較したところ、構造遺伝子の塩基配列は約85%保持されていたが、アミノ酸配列は更に良く保持されており、多角体の高次構造におけるアミノ酸配列の重要性が示唆された。 多角体の形態の異なるカイコNPVが種ケ島より分離され、感染体液からプラーク法によりBT31株をクローニングした。制限酵素処理後の泳動パターンを標準株と比較したところ、全体の10〜20%のパターンが異なっていた。ハイブリダイゼーションによりBT31株の多角体遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定したところ、4ケ所の塩基置換が認められた。これらのうちの2ケ所はアミノ酸置換をもたらし、高次構造の変化を引き起こしたものと考えられた。CAT遺伝子を導入したカイコNPVを用い、増殖組織や感染経路に関する詳しい検討を行える系を確立した。
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