研究概要 |
トドマツ材から単離されたリグナンはβ-β型リグナン15種及び他の結合様式をもつ2種の17種であり、全て光学活性である。この中4種(todolactolA-D)は部分構造としてラクトール環を有する新しいリグナンである。これらリグナンの旋光性は全て側鎖上の2-4個の不整中心の性質を反映し、樹木内での生合成の際、不整誘導の結果生じたものと考えられる。一方、トドマツ抽出物から単離されたBrauns,リグニン(BL)は光学的に不活性である。分子量分布はおよそ2500〜1000程度と推定される。機器分析、分解物の分析結果はBLの構造中にリグナン類にみられる結合様式の存在を示した。温和な分解による分解物から光学活性なリグナンを単離した。このリグナンは抽出物から単離されたリグナンと一致し、そのキラリティは共に〔+〕である。この事はBLが部分構造として同材から単離された立体特異的なリグナンを含み、BLとリグナンは類似の基本単位から生合成される事を示す。リグナンと類似の生合成機構を持つリグニン調製のモデル実験で、不整場としてホロセルロース,ヘミセルロース中で調製した脱水素重合中間体(DHP)は光学活性なリグナンを含む。しかし、不整場外で調製したDHP中のリグナンは光学不活性である。不整場内・外で調製したDHPは分子量分布に差があり、後者のそれはBLの分子量分布に一致し、前者のDHPは若干大きい分子量区分に位置する。これは不整場が光学活性を誘導するばかりでなく、DHPの生長にも強く関与している事を示す。低分子量リグナンの光学活性、光学不活性のBL分子中に光学活性のリグナン単位の存在、不整場で生ずるリグナンの光学活性等はリグニンの立体化学に無関係とは考えられない。リグニンの光学不活性は高分子化の過程で各単位のキラリティが相殺されているか、又は対称面をもつように生長するか、新たに問題が提起され、更に究明されねばならない。
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