本研究は(1)血清学的方法に基づいて分類・整理されている動物由来のマイコプラズマについて、その抗原決定基を指令する遺伝子を組換えDNA技術により、大腸菌にクローン化し、その遺伝子の構造を決定し、それを応用して遺伝子レベルでのマイコプラズマの系統的分類を行うこと、および(2)大腸菌もしくは哺乳動物培養細胞内で抗原遺伝子を発現させることにより、家畜のマイコプラズマ感染症に対するワクチンの開発への応用を計ることの2点を目的としている。 初年度(昭和60年度)は、(1)マイコプラズマを大量培養し、その遠心沈渣から染色体DNAおよび菌体タンパク質を分離・抽出するとともに、組換えDNA用ベクターを大量に収集・精製し、(2)マイコプラズマの菌体タンパク質の電気泳動とイムノブロッティングにより抗原タンパク質を同定し、さらに(3)マイコプラズマの染色体DNAおよびプラスミド・ベクターを酵素的に切断・連結し、大腸菌に導入し、マイコプラズマの遺伝子ライブラリーを一種類作成した。しかし、得られたライブラリー中には、抗原物質産生クローンは検出できなかった。そこで次年度(昭和61年度)は(1)外来遺伝子の発現ベクターであるラムダgt11ファージを用いて、マイコプラズマ・パルモニスの遺伝子ライブラリーを作成し、(2)酵素抗体法により抗原物質産生クローン10株を得た。これらのクローンは抗原物質を産生するので、マイコプラズマ・パルモニス感染症に対するコンポーネント・ワクチンの開発のための好個の素材になると考えられる。今後、産生される抗原物質の中から、感染防御抗体の産生を促すものを選択し、ワクチンの開発への道を拓く予定である。また、抗原遺伝子の構造についても目下検討中であるが、その成果を応用してマイコプラズマの分類・同定のための核酸プローブの開発も計画している。
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