研究概要 |
頸運動は動物が対象に働きかけるとき、まず眼球,頭,体幹を対象に向ける定位運動において重要な位置を占めている。申請者はこれまでこの定位運動に関与する大脳及び上丘から頸運動ニューロンへの下行性コマンド、橋,延髄網様体に存在し、かつその軸索側枝を下部頸髄まで投射する網様体脊髄路(C-RST)細胞により介在されることを明らかにしてきた。そこで本研究では、橋,延髄由来のC-RST細胞の軸索に脳幹,脊髄の種々のレベルでHRPを注入し、終末まで染め出し、その形態を脳幹から脊髄まで全長にわたって詳しく解析した。その結果、橋,延髄由来のC-RST細胞には形態学的相違があることが明らかになった。橋由来のC-RST細胞は脳幹ではMLF又はその近傍を下行し、途中外転神経核,舌下神経前位核,延髄網様体,前庭神経核に多数の側枝及び終末を派生した。上部頸髄(【C_1】-【C_3】)では軸索は前索を下行し、頸運動核に多数の終末を派生する以外に、Rexedの【VIII】-【VI】層にも少数の終末を分布した。これに対し延髄由来のC-RST細胞は脳幹では、ほとんど側枝を派生せず脳幹網様体内側部を下行した。上部頸髄では、前索外側部又は側索を下行した。前索外側部又は側索腹側を下行したC-RST細胞は頸運動核,副神経核のいずれかに多数の側枝,終末を派生した。終末の一部は【VIII】-【VI】層にも分布した。側索中央部を下行したC-RST細胞は頸運動核にはほとんど終未を派生せず、主に【VIII】-【VI】層外側部に終未を派生した。前肢運動ニューロンの存在する下部頸髄(【C_6】-【C_8】)では、橋,延髄由来の両C-RST細胞とも終未を主に【VIII】-【VI】層に派生し、前肢運動核にはほとんど派生しなかった。以上の結果より橋由来のC-RST細胞は、眼球と共同した指向運動に、延髄由来のC-RST細胞は、主に頸運動に関与し、両者の下部頸髄への軸索側枝は、頸運動に伴う肢による姿勢調節に関与していることが示唆された。
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