研究概要 |
細胞は低浸透圧環境におかれると膨張し、高浸透圧条件下では収縮するという当然の物理化学的挙動を示す。多くの細胞では、これに加えてその後に正常体積へ復帰するという細胞容積調節能を有している。低張条件下における膨張後の回復(収縮)をRegulatory Volume Decrease(RVD)と呼ぶ。ヒト胎児培養小腸上皮細胞Intestine407の平均容積をコールターカウンターによって測定したところ、やはりこの細胞もRVD能を示すことが明らかとなった。そこで本細胞におけるRVDメカニズムを、通常微小電極による細胞内電位記録法、二本の微小電極による膜電位固定法、パッチ電極による全細胞記録法、イオン選択性微小電極による細胞内イオン濃度測定法などの多種の電気生理学的実験を行い検討したところ、次のような点が明らかとなった。(1)RVD過程には【K^+】チャネル開口とそれにひきつづく【Cl^-】チャネルの開口が伴われる。(2)この【K^+】チャネルの開口は細胞内【Ca^(2+)】濃度の増加によってトリッガーされる。(3)ところが【Cl^-】チャネルの開口は細胞内【Ca^(2+)】イオンとは無関係にひきおこされる。(4)これらによってもたらされた膜電位変化は【K^+】及び【Cl^-】チャネルを通じてのKClの細胞外への流出を駆動するに充分なものである。(5)このKCl流出によって細胞内【K^+】及び【Cl^-】濃度は有意に変化し、水の流出をもたらす。その結果、低張負荷によって物理化学的に膨張した細胞はもとの容積レベルへと回復することになる。以上のように本研究では、培養小腸上皮細胞の低張負荷時の細胞容積調節機構に膜の【K^+】チャネル,【Cl^-】チャネル及び細胞内【Ca^(2+)】イオンが重要な役割を演じていることが明らかとなった。
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