グルタミン酸は中枢神経系シナプスの主要な興奮性伝達物質である。また近年、脳の可塑性変化がグルタミン酸受容体の活動を介して発現することが報告されている。したがってグルタミン酸の中枢ニュ-ロンへの作用機構を調べることは神経科学の重要な課題の一つである。本研究はラットの培養海馬ニュ-ロンを対象として、パッチクランプ法によりグルタミン酸受容体チャンネルの電気生理学的性質を明らかにすることを目的として行われた。主な結果は以下の通りである。1.生理的な細胞内液、外液中に存在するイオンのうちグルタミン酸受容体チャンネルを透過するのは、Na^+、K^+、Ca^<2+>である。2.グルタミン酸投与により発生する単一チャンネル電流を記録し、単一チャンネルコンダクタンスを求めると、40〜50pSのものと20pS以下のものとがあった。前者はN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)型、後者は非NMDA(キスカル酸、カイニン酸)型受容体チャンネルの活動によることが結論された。3.膜電位が-40mVにより負側にある場合、細胞外液中のMg^<2+>はNMDA型チャンネルの活動を著しく抑制した。4.NMDA型チャンネルはCa^<2+>に対して高い透過性を示し、Ca^<2+>の透過係数はNa^+の6.2倍に達した。2価陽イオンの透過係数比はBa^<2+>(1.2)>Ca^<2+>(1.0)>Sr^<2+>(0.8)>Mn^<2+>(0.3)>>Mg^<2+>(<0.02)であった。5.トリプトファンの代謝産物であるキノリン酸は選択的なNMDA受容体のアゴニストであり、キノリン酸感受性電流はMg^<2+>により膜電位依存性に抑制を受け、単一チャンネルコンダクタンスは40〜55pSであった。6.従来カイニン酸受容体チャンネルはCa^<2+>透過性をもたないとされてきたが、比較的高いCa^<2+>透過性を示す新しいタイプのカイニン酸受容体の存在することが明らかになった。この新しいタイプのチャンネルの微視的性質を決定し、従来から報告されているカイニン酸受容体チャンネルとの差異を検討することは今後の研究課題である。
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