原索動物ホヤ分裂停止胚の各割球では巨視的形態は初期胚のまま不変でも膜の分化は進行し、膜興奮性から見ると神経・筋・表皮あるいは非興奮性細胞型のいづれかになる。このことは初期胚の大型割球は正常の発生予定運命からみると各種細胞形質の混合あるいはモザイクになることが予想されても、実際に実現する分化は単一の細胞型を選択していることを示唆した。本研究においてはこの選択を細胞分化機序の本質と考え、まず4・8細胞期の固定した割球をもちい、これを分裂抑制後単離培養して、各割球の細胞質因子による自律性分化を解析した。また他の特定の割球と接着させて培養し、隣接細胞からの誘動作用下にある分化も解析した。 8細胞胚の動物半球頭側の【a_(42)】割球および尾側の【b-(42)】割球は単離して培養すると持続性のCa活動電位を発生し、細胞質には2C5抗体が結合して、すべて表皮細胞型に分化した。また植物半球頭側の【A_(41)】割球はCa電流による内向き電流および遅延整流性の外向き電流によって局所反応様の活動電位を発生し、恐らく脊索型細胞に分化しているのではないかと考えられた。また植物半球尾側の【B_(41)】割球はCaスパイクを発生して筋細胞型に分化する場合が多かった。ところで、単離して培養すると常に表皮細胞型に分化した【a_(42)】割球についても、植物半球の予定脊索領域を含む頭側割球【A_(41)】を接着させた状態で培養すると、70%程度の【a_(42)】割球がNaスパイクを発生した。また免疫組織化学的に2C5抗体が結合しなくなり、表皮細胞以外の興奮性細胞に分化したことがわかった。脊椎動物胚では予定脊索領域にある中軸中胚葉の裏打ちによって神経板が誘導される事実から推測して、ホヤ胚で予定脳胞領域を含む【a_(42)】割球が、予定脊索領域を含む【A_(42)】割球によって誘導されて、神経細胞型に分化したと考えられた。
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