骨格筋の興奮収縮連関における未解決の最大問題、すなわち、T管膜の脱分極が隣接する小胞体からのCa放出を惹き起こす分子機序を明らかにするのが本研究の最終目標である。このためさしあたり、細胞内環境を種々に変えた時、脱分極ーCa放出関係がどの様に変わるかを詳細に調べる事を当面の目標として、骨格筋の細胞膜、T管膜を生理的状態に保ったまま細胞内環境を容易に変えることの出来る縦切りカット・ファイバー標本を開発、完成し、それを用いて新知見を得た。骨格筋から単一筋線維を分離し、これをシリコン・グリースを塗った、2枚の窓をあけた鈎型のアクリル片で挾み込むことによって、筋線維を窓部分を介して絶縁されれ2つの槽(poolEとpoolI)の間に置く。poolEにはリンゲル液、poolIには弛緩液を入れ、poolI側の線維の細胞膜を機械的に、またはサポニン処理により、その選択的透過性を破壊し、細胞内poolIと通じさせる。両槽間の電位と、その間を流れる電流とを測定、制御して膜電位固定を行い、その結果放出されるCa量をCaと結合して蛍光強度を変える色素、furaー2を用いて落射蛍光顕微鏡下に測定した。膜電位固定の電流の測定から、この標本の細胞膜、T管膜のNa及びKチャンネルは生理的状態を保っていることが示された。poolIの溶液交換によって細胞内液はKイオンの場合には数分以内に、色素の場合でも20ー30分で完全に置換された。脱分極の大きさと放出Ca量との関係は、ほぼ知られている通りのものが得られた。この様に、充分に実験可能な方法の開発に成功したので、これを用いて、細胞内のCa濃度を強く緩衝した条件下でも、脱分極によるCa放出は少なくとも減少はしない事が示され、生理的なCa放出は「CaによるCa放出機構」を介するものではないという我々の従来からの主張が裏付けられた。今後、更に種々の細胞内条件下で、実験を行い、生理的Ca放出の特性を明らかにする。
|