研究概要 |
本研究では, 長鎖および極長鎖脂肪酸伸長反応系を, 部分反応にわたって詳細に解析すると共に, この反応系に関与する酵素あるいは, シトクロムに対するモノクローナル抗体の作製と, それによる脳組織での活性発現様式および脳脂肪酸代謝異常解析への応用の可能性について検討を加えた. 本研究の主な成果は次の通りである。 1.NADH-シトクロムb_5還元酵素が脳の脂肪酸伸長系に関与することは1985年に発表し、その全アミノ酸配列を決定したが、ここでは更にcDNAの構造を明らかにした。またこの酵素に対するモノクロナ-ル抗体が得られた。 2.脳における極長鎖脂肪酸伸長系が、平行した2つの経路よりなることをコンピュ-タ-シュミレ-ションによって明らかにした。 3.脂肪酸伸長の部分反応について解析し、アラキジン酸-CoA縮合反応産物をラジオ液体クロマトグラフィ-などによって同定し、縮合反応が脂肪酸鎖長により少くとも2種の異なった酵素によって起こることを示した。更にアラキジン酸-CoAおよびその4不飽和体であるアラキドン酸-CoAの伸長反応において、縮合反応が律速であることを明らかにした。 4.アラキジン酸-CoAなど、極長鎖脂肪酸伸長反応では、NADPHから直接立体特異的にS位の水素が転伝さることを証明した。先に述べた、シトクロムb_5還元酵素の脂肪酸伸長系への関与と考え合わせると、パルミトイル-CoA伸長反応まではミクロソ-ムの電子伝達系が関与し、それより長い脂肪酸の伸長は、これと異なって直接NADPHによって還元されるというように、脂肪酸鎖長により還元部分反応が異なることが見出された。 5.このような研究過程の中で、我々はまた副腎白質ジストロフィ-症で問題となっており、正常では殆んど認められない炭素数26の脂肪酸を生成する酵素系を人為的に作製し得た。これは本症の病因解明に基礎的根拠を与えるものと考えられる。
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