研究概要 |
本研究は, わが国における虚血性心疾患や脳梗塞の成因に関して, 従来より指摘されている高血圧, 高脂血症等の危険因子の他に, 血栓形成に関与すると考えられている脂肪酸構成との関連を検討することを目的とした. 従来より疫学調査を実施している1漁家, 3農村, 2都市の集団を選び, 40〜59才, 男子について, 循環器検診, 虚血性心疾患および脳卒中の発症調査, 栄養調査, 血清中脂肪酸の測定を行なった. 1)わが国の漁家, 農村, 都市の6集団間における摂取食品中, 血清中の脂肪酸の測定成績では, 飽和脂肪酸, 1価不飽和脂肪酸, 多価不飽和脂肪酸の割合に大きな差はみられなかった. 多価不飽和脂肪酸のうちのω3系脂肪酸は漁家で高く, ω6系脂肪酸は都市で高く, 農村はその中間であった. 2)摂取食品中と血清中の各脂肪酸の相関では, 漁家, 農村, 都市の6集団間でω3, ω6の割合において, 強い相関を認めた. 3)漁家では, 虚血性心疾患発生率は, 農村および都市に比し低い傾向にあり, 脳梗塞発生率は, 農村および都市に比し高かった. 血圧レベル, 肥満度は, 農村および都市に比し高く, 血清総コレステロールレベルは, 都市に次ぎ高かった. 血清HDLコレステロールの平均値は, 農村および都市と差がなかった. 喫煙率は, 農村に次ぎ高かった. 漁家の虚血性心疾患発生数は上述のリクスファクターより予測された発生数に比し少なく, 脳梗塞発生数は予測された発生数に比し多かった. 脂肪酸には血栓形成の抑制機序があるとされているが, 以上の成績より, わが国では, この機序が虚血性心疾患抑制には働いている可能性があるものの, 脳梗塞抑制には, 虚血性心疾患抑制と同様には働いていないことが分かった.
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