研究概要 |
人のメタンフエタミン(MA)乱用者で、MAを注射直後に突然異常な精神病像を起し、急死する例が多くみられる。これら死体について、血液中および各臓器中のMA濃度を測定すると、いわゆるMAの過量投与による急性中毒死とはいえない結果が得られた。そこで、これら急死例での直接死因に疑問を抱き、ラットにMAを投与し、その体内分布および脳内ノルエピネフィリン(NE),ドーパミン(DA),セロトニン(5HT)濃度を調べ、MA投与後に認められるラットの諸症状との関係を検討した。MA投与後に急死したラットでは、その死亡直前に心拍数の異常な増加と体温の急激な上昇を認め、前者は脳内NEの変化と、後者は5HTの変化と関係があることが示唆された。また、MA投与後に認められるラットの各種異常行動は、ラット体内のMA濃度とは相関せず、むしろ脳内のNEやDAの変化と関係があることが証明された。特にラットにMAを慢性的に投与し、その後に一定の休薬期間をおくと、MAで急性中毒死したラットに比べて、脳内のカテコールアミン濃度に特徴ある変化が認められた。一方、人の常習飲酒者でMA乱用時において、異常精神病像の発現率が高いことが統計的にわかった。ラットでもエタノール嗜好性の高いものとそうでないものとにMAを投与すると、前者ではMA投与後のエタノール嗜好性に変化を来し、また、MA投与後のラットの異常行動発現率が両ラット間において差異が認められた。これは両ラット間における生来の脳内カテコールアミン濃度の差異に関係があるという結果が得られた。以上の結果から、人でのMA乱用者における各種の異常精神病像の出現および、それに引続いて起る急死の原因の一つに、MA投与の前後における脳内のカテコールアミン濃度の異常な変動が、心臓を始めとする体循環系に対して何らかの影響を及ぼすことが考えられる。
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