研究概要 |
1.逆行性軸索流に依存する運動ニューロンの変性:運動ニューロンの軸索は未梢に分布し, 血液脳関門を持たない. RNA合成阻害剤であるアドリアマイレン, 蛋白合成阻害剤であるヒマミレクチンとラット坐骨神経に注入すると, 数日〜2週間で, 当該脊髄レベルの体性運動ニューロンのみが, 選択性変性に陥り, 遂には消失した. この病理は, あたかも運動ニューロン疾患の脊髄と観察しているが如く, 非常に類似したものであった. また, 長期生存によって前根には, 小児進行性脊髄性筋萎縮症に特徴的とされるグリア束の形成をみた. 以上から, 運動ニューロンの生存と死には逆行性軸索流によって運搬される末梢からの情報(神経毒性物質, 栄養因子糖)が大きな役割を荷っていることが推定された. 2.血清から運動ニューロンへの情報:筋萎縮性側索硬化疾患者血清には神経細胞に病的に作用するものがあることが知られている. そこで, 運動ニューロンが神経筋接合部から血清成分を逆行性軸索流によって取り入れていることを免疫組織化学的に証明することに成功した. 血清アルブミンと免疫グロブリンG分画が多量に運動ニューロンに証明され, 蛋白結合性毒物や重金属イオンはこのようにして運動ニューロンに到達し,運動ニューロン疾患の成因として血中の神経毒性物質の役割を推測させる所見を得た. 3.神経筋接合部構成蛋白, ラミニンの逆行性輸送:ラミニンは培養系で極めて, 強力な神経栄養因子として作用する. ラミニン様蛋白が運動ニューロンの肢体内に存在することを最近見い出した. これは運動ニューロンの生存にラミニンが重要な役割を演じていることを示唆する. 逆にこのラミニン様蛋白を逆行性軸索流によって運動ニューロンに輸送してやることによって, 運動ニューロンの変性を防ぎ, 筋萎縮性側索硬化症の治療に利用出来るのではないかと考え, 鋭意研究中である.
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