今年度は主にコラゲナーゼ処理により得られた単離心筋を用いて誘発活動の成因を検討し、以下の成績を得た。 1.【Ca^(2+)】負荷時の遅延後脱分極:これは脱分極から再分極した時に流れる一過性内向き電流(TI)によりもたらされるが、脱分極時にも同様の内向き電流が認められ、その電位依存性や動態、薬剤に対する反応などから、小胞体からの【Ca^(2+)】放出に依存する電流系でTIと同じものであることを明らかにした。このことはTIに起電性【Na^+】-【Ca^(2+)】交換電流系が関与する可能性を示しており、今後この点の立証を得るべく研究を続ける予定である。TIは細胞内の【Ca^(2+)】動態を反映したものであり、【Ca^(2+)】電流として流入する【Ca^(2+)】は直接はその発現に寄与していないと考えられているが、単離心筋で【Ca^(2+)】電流を抑制すると直ちにTIの減少が認められた。このことは【Ca^(2+)】電流の流入が小胞体からの【Ca^(2+)】放出に直接影響を与えるとする我々の多細胞標本での結果を支持するものであり、【Ca^(2+)】拮抗剤のTIに対する作用もこの考え方で説明できることが判明した。なお、TIの単一チャンネル電流の測定までは行ない得ず、今後研究を続ける予定である。2.【Ba^(2+)】誘発性遅延後脱分極と自動能の成因:【Ba^(2+)】投与は膜を脱分極させ、遅延後脱分極や自動能をひきおこす。そのイオン機序を単一心筋のwhole-cell clamp法で検討した。【Ba^(2+)】は【Ca^(2+)】負荷時のものと異なり、TIを生じることなく、内向き整流【K^+】電流(【l_(k1)】)を電位一時間依存性に抑制した。このため、【l_(k1)】に時間依存性の変化があらわれ、このことが【Ba^(2+)】誘発性自動能や遅延後脱分極をもたらすことを明らかにした。3.アコニチン誘発性遅延後脱分極の成因:アコニチンも遅延後脱分極をもたらすが、これはTIによるものであること、但し、その発現前に-60mV付近で内向き電流を活性化することを明らかにした。このものの詳しい性質・TIとの相違につき検討中である。
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