研究概要 |
低レニン本能性高血圧症と慢性系球体腎炎患者では, 尿中カリクレイン排泄量は, 酵素蛋白量, 活性共に正常対照より有意に低下しており, 尿中カリクレイン酵素蛋白量と酵素活性両者の比である酵素比活性は, 両疾患群で共に有意に低下していた. この事より両群患者における腎カリクレイン活性低下には, 腎での酵素産生低下に加え, 酵素活性のより強い抑制も関与する事がこれまでの60年度,61年度の検討で明らかとなった. そこで, この比活性抑制が, 酵素に対する特異的インヒビターによる可能性を以下に検討した. まず, 患者群の尿検体をSephadex Gー200columnにて展開したところ, 各分画中に精製カリクレインの活性を抑制する物質の存在を認める事はできなかった. 一方, カリクレインは活性,蛋白量共に単一のピークを示し, 分子量の明らかに異なるピークはみられなかったが, ピークの各分画の酵素比活性は低レニン本態性高血圧, 慢性系球体腎炎いずれにおいても, ピークの前半では, 後半に比して明らかに低値を示し, 両疾患では小分子のカリクレイン・インヒビターが存在する可能性が強く示唆された. しかし, ployacrylamidegel electropharesis(PAGE)及びWestern Blot法による正常対照と両疾患患者群の尿検体の対比検討では, 両者共にカリクレインのバンド以外の異常バンドを確認する事ができず, 両群患者において存在が強く示唆されたカリクレイン・インヒビターを少なくともこれらの手法では生化学的には同定できなかった. 一方, ラットを用いた動物実験では, DOCAーsalt高血圧及び5/6腎摘高血圧において, 尿中カリクレイン排泄量は酵素蛋白,活性共に有意な増加あるいは低下を認めたが, いずれもカリクレイン酵素比活性は対照と差をみず, ラットにおいてはヒトを異なり, 酵素インヒビターを示唆する成績は得られず,ラットの腎カリクレイン・キニン系の活性調節は, 主に腎におけるカリクレインの産生に依存するものと考えられた.
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