研究概要 |
昨年度に引続き、非神経疾患(対照)および筋萎縮性側索硬化症(ALS)の背髄運動ニューロンと、新たに対照小脳のプルキニエ細胞と単離し、そのγ-アミノ酪酸(GABA)濃度と、その生成酵素(グルタミン脱炭酸酵素,GAD)活性を測定した。典型的なGABA作動性ニューロンであるプルキニエ細胞は、ウサギの小脳では高いGABA濃度とGAD活性を持っていたが、ヒトの細胞ではウサギに較らべて、GABA濃度は1/2.7,GAD活性は1/12で、著しく低かった。ウサギ,ネコ,ニワトリの背髄運動ニューロンは、典型的なコリン作動性ニューロンであるにもかかわらず、GAD活性をもっており、その活性値は、ウサギ>ニワトリ>ネコの順であった。背髄運動ニューロンにおけるGABAの役割は、今のところ不明であるが、種々の証拠から伝達物質以外の機能(例えば栄養因子としての機能)を果たしている可能性がある。そこでALSの変性ニューロンでは、GABA系がどのように変化するかを知るために、対照とALS背髄運動ニューロンを分析した。GABA濃度は、対照およびALSニューロンともに、プルキニエ細胞と同程度の値であった。GAD活性はほとんど対照ニューロンには見出されず、ALSニューロンにも有意の活性は見られなかった。昨年度の報告書に述べた如く、ヒトの背髄運動ニューロンは、他の動物に較らべて著しく低いアセチルコリン生成活性を持っており、今回のプルキニエ細胞のGAD低活性を考慮すると、一般的にヒトのニューロンは低い伝達物質生成能をもつと考えられる。ALS運動ニューロンでは、たとえGAD活性の変化があっても、本来の低活性のため、GADの変化は見出せないと考えられる。 平行して、アミン系伝達物質生成の補酵素である、還元型ビオプテリンの微量測定法を完成した。これをヒトの脳の分析に応用して行く。
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