従来の方法で得た甲状腺ペルオキシダーゼを抗原としてモノクロナール抗体を作製しベタおよびヒトの本酵素のイムノアフィニティークロマトグラフィー法による精製法を開発した。これら2種の酵素はいづれもネイティブフォームで精製されているものと考えられ、ヘム蛋白酵素としての活性特性や生化学的特徴はほぼ相同のものであり特異性・収量・迅速性においても現在最良の方法である。ブタ酵素を用いた組織免疫化学的方法により本酵素が小胞体内面と濾胞側形質細胞膜に存在する細胞内局存性を明らかにし、また本酵素が甲状腺ミクロソーム中にはチトクローム【b_5】の約12.5%相当量が存在する結果を得た。酸化還元機構については本酵素がパラベンゾキノンを2電子酸化すること、フェノールの場合その2および6位の置換基の種類により2電子より1電子酸化型に移行すること、またジョードチロジン等は1電子酸化型であるが、グルタチオンはチロシンの2電子酸化を介して同型の酸化をうけること等を電子共鳴装置も駆使して明らかにした。ホルモン生合成に関与する調節機構の1つとしてカルシウムの意義を中心に検討した。このイオンは合成機構の中枢である本酵素と試験管内で直接反応し合うことはないがブタ甲状腺ミクロゾーム分画にはカルシウムの能動的輸送機構が存在することを発見し、これが細胞内情報伝達系に深く係わっている可能性を示した。さらに小胞体に取り込まれたカルシウムがイノシトール化合物により放出される現象も見い出し報告した。動員されるこのイオンの標的については現在不明であるが、甲状腺細胞膜分画がカルシウム依存性に過酸化水素を生成することを確認し、この酵素のATP依存性や触媒特性について報告した。またヒトの本酵素の自己抗体が甲状腺自己免疫性疾患患者血中に出現し本酵素が主要な対応抗原であることを明らかにし、現在そのCDNA構造を解明し報告中である。
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