可移植性黒色腫細胞を用いて漿膜面における腫瘍細胞着床機構、ならびに漿膜腫瘍症の病態を解明することが出来た。 1. 黒色腫細胞を漿膜腔に接種し経時的に観察すると腫瘍巣が漿膜面上に小黒点として認められるようになる。この黒点、つまり黒色腫細胞が漿膜に着床し増殖する部位が乳斑組織であることを組織学的に観察することが出来た。 2. 電子顕微鏡的観察によると、漿膜腔内に接種された黒色腫細胞はまず乳斑部に存在する固有の粗な結合様式を示す丈高の中皮間隙を通って乳斑組織に侵入しこゝに腫瘍結節を形成する。腫瘍細胞接種後に乳斑部の丈高の中皮細胞は活動性を増し、中皮間隙が増強され、このことが腫瘍細胞の同組織内への侵入を助長する。 3. 肉眼的に上記の黒色腫病巣が認められる時期にあっても漿膜面を覆う通常の扁平な中皮には異常は認められず、中皮間結合も密であって、腫瘍細胞が直接に通常の扁平な中皮を破って深部に侵入することはないと考えられる。 4. 黒色腫の漿膜腔内接種後に乳斑組織内毛細血管内皮の細胞間隙がし開し、赤血球が血管外に流出する像が認められる。乳斑部毛細血管の基底膜は正常においても疎であり、angiotaxisによる血球の流出を一段と容易にするものと考えられる。 過去の成績ならびに今回の成果に基き乳斑組織の細胞成分の生体における意義を62年度に解明する予定である。
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