研究概要 |
本研究の目的は、虚血性脳浮腫に対する新治療薬の開発をめざして、虚血脳病態における遊離基およびアイコサノイドの役割りを究明し、遊離基捕捉剤が果たして脳浮腫に対する治療薬となり得るか否かを検討することであった。研究期間に得られた成果を以下に列挙する。 1:虚血脳ではアラキドン酸カスケードの働きが全体に賦活され、各種のプロスタグランジン(PG)とリポキシゲナーゼ産物(HETES)が産生される; 2.虚血脳内でのHETESの増加を初めて定量的に明らかにした; 3:アラキドン酸カスケードの賦活は、脳内遊離基の増大による関連酵素活性の上昇に、一部帰因すると考えられる; 4:脳微小血管の【Na^+】,【K^+】-ATPase活性は、過酸化脂質の一つである15-HPAAにより賦活される; 5:ウアバイン脳動脈内(閉塞した中大脳動脈末梢)注入により、虚血性脳浮腫の発現に脳微小血管【Na^+】,【K^+】-ATPaseが関与すると推定された; 6:脳微小血管画分の15-HPAAによる【Na^+】,【K^+】-ATPase活性の上昇には、リポキシゲナーゼ系の賦活が関与する; 7:遊離基捕捉剤(ビタミンE,AVSなど)により、15-HPAAによる脳微小血管【Na^+】,【K^+】-ATPase活性の上昇が抑制された; 8:AVSは、ネコおよびネズミ中大脳動脈閉塞後の脳浮腫を、着明に抑制した。 以上の結果より、虚血性脳浮腫の発現には、脳微小血管内皮細胞の【Na^+】,【K^+】-ATPase活性の亢進が関与し、それはリポキシゲナーゼ系の亢進に基づくものであることが推定される。遊離基捕捉剤は、リポキシゲナーゼの遊離基による活性化を阻止することによって、抗脳浮腫作用をあらわすと考えられる。すなわち本研究によって、虚血性脳浮腫に対する治療薬としての遊離基捕捉剤の有用性と作用機序の解明を、大きく進めることができた。
|