研究概要 |
本年度は昨年度に引続き、ウット海馬ニューロンの活動に及ぼす低酸素の影響検索をさらに深め、また、脳局所灌流実験についての基礎的検索とそれに関わる新たな知見を検討した。 1.低酸素負荷による海馬CA1ニューロンの膜電位変化は、イ)一過性脱分極、2)軽度過分極、3)緩徐に進行する脱分極、4)急速な脱分極の4相からなることを既に示しているが、無グルコース負荷によっても低酸素負荷による過分極と同程度の過分極が起こることを見出した。この過分極は低酸素負荷と同様に細胞内ATP減少によって活性化される膜電位非依存性K電流によると考えられる。また、急速な脱分極過程では細胞外【K^+】濃度の上昇が考えられるが、高【K^+】濃度灌流液負荷による脱分極と膜の不可逆性変化がCaチャネルブロッカーである【Co^(2+)】の灌流液添加によって抑制されることから、低酸素による急速な脱分極と膜の不可逆性変化における【Ca^(2+)】の細胞内流入の寄与が示唆される。 2.脳局所灌流による電気現象等の検索については灌流の基礎条件(流量,流速,灌流圧等)を検討しているが、さらにわれわれはマウスを用いた別の実験で、脳に軽度の損傷(25G注射針を4か所、深さ5mm刺入)を受けた動物では実験的脳虚血(総頸動脈両側結紮)負荷に対する生存率を高める機序が発動し、しかも、この虚血に対する抵抗性の発現は虚血時の麻酔薬によって差異のあることを示唆する結果を得ている。このことは、脳虚血に対する治療の観点からも興味深いものであり、脳局所灌流実験における各種薬物の影響と同様に軽度脳損傷の影響を検索することが必要であると思われる。以上の点を十分検討して脳局所灌流の手法を確立し、低酸素による電気現象、組織学および行動の変化等について検索を進めていく予定である。
|