本研究は血液量の連続測定法により、種々の生理的あるいは薬理的負荷を与え、毛細血管床の水分移動を測定し血管壁の水分透過性を算出することが目的である。初年度はガンマ線シンチレーションカウンターを実験系に組み込みコンピュータと接続し血液量を30秒間隔で測定する装置を開発した。動物実験としては、イヌを用いて呼吸ガスに炭酸ガスを付加し心拍出量の増加と末梢血管抵抗の減少した状態で乳酸加リンゲル液の輸液による血液量の変動を計測した。最終年度は、全脊椎麻酔をほどこし乳酸加リンゲル液の輸液負荷実験とカルシュウムブロッカーであるニカルジピンの前処理のもとに乳酸加リンゲル液の負荷実験を行うことができた。炭酸ガス負荷実験では心拍出量は1.5倍に増加し、また若干の動脈血の上昇が見られたが血液量に変動は生じなかった。全脊椎麻酔は大曹にブピバカインを注入して行った。血圧の変動は無かったが心拍数心拍出量共に減少した。輸液負荷では若干の動脈血圧静脈血圧の上昇が得られ、また心拍出量の増加が見られた。ニカルジピンの投与では中心血圧は変動しなかったが著名な動脈血圧の降下が見られた。また心拍出量の増加が見られ、計算値では全末梢血管抵抗はコントロールの半分にまでなった。輸液負荷により血圧上昇はみられたが血管内残存輸液量はこれらの実験で最も多かった。輸液により増加する血液量と中心静脈圧との関係をX-Y平面で描くと無処置のコントロールでは直接関係にならなくヒステリシスを描く。われわれはこの現象を血管壁そのものが有している粘弾性の性質として扱い遅延コンプライアンスと唱してきた。3種の実験ではこのヒステリシスが無くなり直線と見ることが出来る。しかも全脊椎麻酔では血管コンプライアンスが最も大きな値となった。これらから、少なくとも遅延コンプライアンスには血管の神経支配が関与していることが示唆された。
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