研究概要 |
新生児ラット舌粘膜上皮の分離培養を行ない、上皮の増殖形態・分化形態・ケラトヒアリンの形成などを検索した。また、freeze fracture法を用い、gapjunctionとdesmosomeの密度や面積を経時的に検索し、細胞のdubling timeは約30時間であった。継代培養は第8代の継代まで行ない、それらの形態は初代培養と何ら変化を認めなかった。細胞増殖と共に細胞は重層化し、微細構造は発達し、tonofilamentの集束,ケラトヒアリン顆粒の出現などを認めた。また、基底部の細胞とプラスチックシャーレとの間にはamorphousな物質を認め、同部の細胞側にはhemi-desmosomeを認めた。Replicaでは細胞の発育・分化と共にgap junctionとdesmosomeの密度・面積の増加を認めた。さらに、この培養系に発癌剤9,10-dinethyl-1,2-benzanthracene(DMBA)を投与した。細胞膜は発癌剤投与後6時間で一過性に膜内粒子の減少を認め、12時間から2日の間では逆に膜内粒子の増加を認めたが、その増加はとくにE面に顕著であった。3日以後になると膜内粒子の全体数が減少し、対照群とほぼ同様な値になったが、P面とE面の分布を比較するとE面は粒子の増加を維持したままであった。Gap junctionは発癌剤投与後6時間より細胞膜に占める割合が45〜80%と減少を示し、また、電気生理学的にもcoupling ratioが投与後12時間より対照群と比較し約60%の減少を認めたことから、細胞間連絡の欠如あるいは減少が示唆された。Desmosomeは超薄切片法により種々の破壊像を認め、同時に細胞膜に占める割合も発癌剤投与後12時間より35〜60%の減少を認めた。以上のことから、発癌とは非常に早期より細胞膜および細胞間結合に変化が起こり、それらの破壊と修正をくり返しながら細胞が母集団より逸脱し、無制限の増殖を示すようになることと考えられ、したがって細胞膜および細胞間結合の変化は、発癌過程の一つの重要な表現形質であることが示唆された。
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