研究概要 |
大腸菌における細胞分裂開始の誘導機構の遺伝的背景を明らかにし、分子レベルにおける理解への手がかりを得ることを目的に研究を行った。我々はすでに、F大腸菌においてはその細胞分裂がF因子のDNA複製に共役していること、その共役がF因子上の細胞分裂誘導遺伝子letAと細胞分裂抑制遺伝子letDにより調節されていることを報告している。本研究においては、LetA蛋白質,LetD蛋白質を精製しその蛋白化学的諸性質を解析すると共に、その生化学的活性を検索することを目的に以下の実験を行った。 1.LetA蛋白質、LetD蛋白質は、letA,letD遺伝子をpUC系の多コピープラスミドベクターにクローンし、その高温におけるコピー数の上昇と強いtacプロモーター活性により多量生産させ、硫安分画,DEAEセルロースカラムクロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィーを行うことにより90%以上の純度で、両蛋白質を含む画分として精製した。 2.両蛋白質を含む精製標品をゲル濾過クロマトグラフィー,イオン交換クロマトグラフィー等を用いて分析したところ、両者は分子量64,000の複合体を形成していること、そのサブユニット構成は2分子のLetA蛋白質と4分子のLetD蛋白質であることが明かとなった。 3.この精製標品を塩酸グアニジンで変性後、逆相クロマトグラフィーを行いLetA蛋白質、LetD蛋白質の分離を行った。精製された蛋白質がそれぞれLetA蛋白質、LetD蛋白質であることは、アミノ酸組成とアミノ末端のアミノ酸配列を決定し、これを各々の遺伝子の塩基配列と比較することにより確認した。 4.精製したLetA・LetD蛋白質複合体は、mini-F領域DNAにやや強い、鮭精子DNAに弱い結合活性を示した。以上の結果は、LetA蛋白質、LetD蛋白質およびF因子DNAが互いに作用し合いながら細胞分裂開始の調節に機能しているという遺伝学的手法を用いて得られた結果とよく一致するものである。
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