研究概要 |
本研究の目的は炎症組織における水の動態変化を正確に把握することによって, 炎症組織の病理学的変化および各種のメディエーター動態との関連を検討し, あわせてこれらの諸種パラメタに対する抗炎症活性物質の影響を解析することである. 本研究では以下の3点について実施した. 第1は生体組織の水動態の解析を目的とした1H-NMR応用の基礎的検討, 第2はラット背部皮下に綿糸を埋没することによって作製した炎症性肉芽組織を炎症モデルとし, 炎症反応進展に伴う水の動態変化を360MH8, 1H-NMRにて検討し, 第3に血管透過性亢進とそれに基づく急性炎症が比較的検討しやすい紫外線紅斑モデルを用いて物理化学的パラメタと炎症像の関連を炎症反応進展によるメディエーター動態と病理学的変化から検討した. 本研究によって従来では不可能に近かった炎症組織などの病態組織の客観的な評価が高磁場型1H-NMRを用いる組織内の水動態解析から可能となった. この時, 水の縦緩和時間, T1, とともに生体組織から水への交叉緩和時間, Tis, が良い指標であり, 特にTisは優れたパラメタとなった. この測定にはInversion recovery法が高い精度をあたえた. 炎症性肉芽組織ではこのT1およびTisがともに変化し, この変化は含水量変化のみでは説明できず, 炎症組織ではゲル状態が強まっていると考えられた. しかし炎症反応を起こていない組織との比較は今回の実験条件では不可能であり, 病態のない正常組織を対照とできる炎症モデルの確立が必要である. その目的としてモルモット紫外線紅斑モデルの応用に関し, 研究中である. 抗炎症変は非特異的に炎症反応を抑制し, 反応の遅延という形で作用を出現した. これらに関する詳細は適当な炎症モデルの開発とともに今後の系統的な研究が必要となろう. なおここで実施した方法論は腫瘍肝とか再生肝での成統からも推測されるように, いわゆる臓器炎症の定量的評価に有力な手段となり得ると考えられた.
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