昭和60年度に引き続いて、新たな腎臓移植患者18名(合計39名)の副腎皮質機能を血中コルチゾールレベルでモニターした結果、以下の作業仮説を得た。 〔作業仮説〕プレドニゾロン連続投与による副腎皮質抑制率は、腎移植急性拒絶反応発症と負の相関々係にある。 この仮説を立証するために、患者血清から得たリンパ球のプレドニゾロン感受性を、健常者のものと比較するin vitroの実験を行った。また、この感受性の差を、急性拒絶反応を発症した患者と発症しなかった患者との間で比較した。その結果、内因性コルチゾールで評価した副腎皮質機能とリンパ球プレドニゾロン感受性の間に相関々係が認められた。上記仮設がリンバ球レベルで立証されたことになる。 これらの臨床的観察及び基礎的実験結果に基づき、以下の結論を得た。 〔結論〕腎臓移植におけるプレドニゾロンの移植免疫抑制作用は、視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系の抑制と正の相関を有する。その結果、内因性コルチゾールの血中濃度を用いて、個々の患者の免疫抑制薬理効果を予測推定することが可能であり、急性拒絶反応の予知に継がる。過剰のHPA系抑制は、過剰の免疫抑制を意味し、重症肺感染症を未然に防止する臨床応用の道が開かれる。この場合、患者はステロイド非感受性で、プレドニゾロンの治療対照となり難く、薬物変更の治療指針が構築されるべきである。 以上の始く、昭和61年度の研究によって得られた結論は、腎移植の免疫抑制薬物療法に極めて大きな影響を与えるものであろう。薬理学的証拠に従った論理的な薬物療法の可能性が開かれたものと考えられる。この結論をふまえて、来年度以後の研究の方向は、ステロイド離脱期の薬物療法に向けられて行くであろう。
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