研究概要 |
ヘロインやモルヒネなどの乱用事例では, 身体依存が形成されると精神依存が著しく強まることが臨床的に知られている. 本研究では, 薬物の種類と身体依存の関与の程度, および身体依存の強さと増強の程度との関係を明らかにする目的で, アカゲザルを用いレバー押し比率累進試験法により薬物を静脈内に自己投与させて, 薬物の強化効果に及ぼす身体依存形成の影響を検索し, 併せて薬物の強化効果と密接な関係を有すると考えられる薬物の自覚効果をアカゲザルにおける薬物弁別実験により検索した. その結果, モルヒネ, ジヒドロコデイン, およびペンタゾシンではサルがこれらの薬物に身体依存の状態にあるときは, ないときよりもレバー押し最終比が大きくなること, すなわち強化効果の増強がみられることが明らかになった. この増強はジヒドロコデインで最も顕著にみられ, ペンタゾシンではジヒドロコデインやモルヒネの場合よりも弱かった. 身体依存の強さとの関係では, ジヒドロコデインで比率累進試験開始前に同薬の3日間または2週間反復強制投与の前処置を施した場合の比較で2週間前処置のときの方が3日間前処置したときより明らかに大きな最終比が得られ, またモルヒネでも同様な結果が得られたことから, 身体依存の強さは強化効果増強の程度に影響し, ある範囲内では両者は正に相関するであろうことが示唆された. しかし同時に, 身体依存が強く形成された重度の退薬症候が発現される場合にはレバー押し行動は障害され, 薬物欲求の強さがレバー押し最終比に正しく反映されていないと考えられる場合もあることが示唆された. ペントバルビタールでは退薬症候は認められたが, 退薬症候に基づくレバー押し行動の障害があったことが考えられるので強化効果の増強の有無については結論は得られなかった. 薬物弁別実験ではモルヒネの効果はコカインおよびペンタゾシンに般化された.
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