研究概要 |
ある種の遺伝子の発現は細胞外シグナルの細胞膜受容体によって制御されているが、受容体から細胞核への伝達機構の詳細は不明である。PDGFやFGF等の細胞増殖因子がc-mycやc-fos遺伝子の発現を促進することが報告されているが、私共は本研究でSwiss3T3細胞を用いて、これらの細胞増殖因子によるc-mycとc-fos遺伝子の発現制御機構について解析を行い、以下の成績を得た。PDGFやFGFはイノシトールリン脂質加水分解を惹起してCキナーゼ活性化と【Ca^(2+)】動員を介して、プロスタグランジン【E_1】(【PGE_1】)はcyclicAMP産生と細胞外【Ca^(2+)】の流入を介して、またEGFは未知の細胞内伝達系を介して、それぞれc-mycとc-fos遺伝子の発現を促進した。この反応は、Cキナーゼを活性化するホルボールエステル,【Ca^(2+)】イオノフォア,cyclicAMPのアナログによっても惹起され、またこれら三者の効果は相加的であった。したがって、Swiss3T3細胞ではc-mycとc-fos遺伝子はCキナーゼ,【Ca^(2+)】,cyclicAMPの三者の細胞内伝達系の制御を受けていることが明らかとなった。さらに、私共はヒト前骨髄球性白血病細胞株(HL-60)においても、c-fos遺伝子の発現がこれら三者の伝達系により促進されることを見出している。以上の成績はこれらの遺伝子の発現制御に普遍的な物質的基盤が存在する可能性を示唆する。一方、私共はSwiss3T3細胞においてFGFによるイノシトールリン脂質の加水分解や【PGE_1】による【Ca^(2+)】流入がCキナーゼにより抑制されることを見出している。これらの結果はCキナーゼがc-mycとc-fos遺伝子の発現を促進するのみでなく抑制もする可能性を示している。このように、c-mycとc-fos遺伝子の発現は細胞内伝達系のレベルでの相互作用により複雑な制御を受けていることが示された。以上の成績を得たことにより、本研究計画はほぼ達成することができたと考えている。
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