真核微生物分裂酵母は、一定の条件下に細胞活動を大きく変化させ、減数分裂を開始する。主として分子遺伝学的解析によりその制御の分子機構の解明を目指した成果を要約する。 1.pat1突然変異株は高温で栄養生長を停止し、栄養条件・接合型条件を問わず減数分裂を開始する。この変異株でみられる減数分裂が正常過程を正しく反映していることを種々の測定で示し、pat1遺伝子産物を減数分裂開始反応の抑制因子と結論した。一方、mei2遺伝子欠損のpat1変異抑圧作用を示し、mei2遺伝子産物を減数分裂開始反応の正の必須因子と結論した。 2.mei2遺伝子の全塩基配列を決定し、750アミノ酸からなる産物を推定した。mei2の転写が窒素源飢餓により著しく誘導されること、しかしこの誘導は減数分裂しない接合型の細胞にも起きることを明らかにした。mei2遺伝子の転写開始部位4ケ所を同定した。 3.pat1変異の抑圧遺伝子として、mei2の他にsteXを同定した。steX変異株は減数分裂不能であると同時に、接合も不能である。 4.分裂酵母におけるCAMPの減数分裂阻害作用を示した。CAMPの阻害効果を無効にする突然変異体を分離し、4グループ(cai1〜4)に分類した。これらの遺伝子の産物は、CAMPの作用を仲介するCAMPカスケードの構成要素である可能性が高い。 5.分裂酵母のras遺伝子(ras1)を人為的に破壊した。破壊株は全く接合不能で、減数分裂の効率も大きく落ちているが、栄養生長に欠損はない。この接合不能現象は、接合フェロモン様拡散性因子を認識する機構が働かないためであることを明らかにした。(6)分裂酵母からカルモデュリンの遺伝子(caml)をクローン化し、遺伝子破壊実験よりカルモデュリンが生育に必須であること、細胞内に過剰には存在しないことを示した。
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