研究概要 |
試験管内でアクチン線維1本とミオシン線維1本との滑りが、筋最大収縮速度と同じ速さで起る事を我々は見出し既に報告した。ミオシン頭部の首振りによる考えでは、この速い滑りを説明することが困難であり、現象論の集積と整理が急務となった。筋収縮の分子メカニズム解明は、またアクトミオシン系細胞運動の分子メカニズム解明に連る。 幾つかの試みの中で、この2年間の主たる成果は、1)ミオシンと棒状部又はLMMとの共重合線維について運動特性に対する知見を得たこと、2)ミオシン尾部を欠いたHMMによるアクチン線維の運動を見出したこと、の二点である。共重合線維でミオシンモル比1/8迄減らしても滑走速度は低下しない。しかし、滑走線維数,滑走距離は共に激減する。この現象に対する説明方法がなく今後検討しなければならない。ミオシン量比減少に伴い熱運動が激しくなって、能動運動との区別が困難で、能動運動を起こすに必要なミオシン分子数についての知見は得られなかった。 蛍光標識したアクチン線維の蛍光顕微観察から、HMMがミオシンとほゞ同等の力でアクチン線維を滑走させる能力を見出した。Hinge領域で酵素分解された産物のHMMが、充分な運動機能を保持している事実からHinge領域が力発生の源とは考えられない。アクチン線維長0.5μm〜7μm迄の変化に対し滑走速度は全く変らず3μm/sである。0.5μm以下の短い線維の運動に関心が持たれる。長さ零の外挿から速度3μm/sでミオシン1分子がアクチン線維を滑らせると推論される。同じ推論がミオシン線維の運動観察からもなされている。ミオシン頭部首振りの考えに代って、如何なる考えが筋収縮,細胞運動を説明するか。試験管内運動再構成と、動く分子の直接観察の方法は、新しい作業仮説探求に必要な知見を得るための一層有力な研究手段となるであろう。
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