猫の腰髄に4×4×3mmの損傷を鋭的に加え、その欠損部に小脳半球及び坐骨神経筋枝を自家移植した後一定期間生存させ、後肢の運動機能の回復状態を観察すると共に、移植部の組織学的、電気生理学的並びにhorseradishperoxiodase(HRP)による検討を行った。 1.後肢の運動機能の回復状態:移植猫では約1ケ月目頃より立位、歩行が可能になった。 2.電気生理学的検討:坐骨神経刺激による脊髄誘発電位は、7匹中4匹に反応の出現あるいは回復が認められた。特にそのうち2例は(移植後7日目に記録)、移植部及びその頭側に於て明らかに誘発電位の回復が認められており、坐骨神経よりのインパルスが移植部を通過して中枢側に伝導された事が示唆された。他の1例では(移植後約9ケ月目に記録)、持続時間の長い陽性波が認められており、killed end potentialの可能性があり、伝導遮断の所見と考えられる。一方脊損のみの猫では、2匹とも誘発反応は認められなかった。 3.組織学的検討:光顕的には移植猫に於ては、一応コラーゲン性及びグリア性の瘢痕は抑制された。移植後6日目に摘出したNo、9猫の標本では、移植した組織片と脊髄との移行部では結合組織の介在はなく、あたかも移植片が脊髄と接合している様な所見を認めた。移植片は、小脳では6日、坐骨神経では22日間は残存していた。その後はmacrophageにより貧食され、何らかの細胞におきかえられるものと思われる。再生神経に関しては、鍍銀染色にて見つける事ができず、又電顕では、シナプス形成を思わせる所見は得られなかった。 4.HRP:下部腰髄よりHRPを注入した移植群及び脊損のみの群の両方に於て、頚髄にHRPlabeled neuronを認め、両者間に差は見出し得なかった。 今後、脊髄損傷作製にあたり、レーザーや超音波破砕吸引装置使用など、技術的改良を加えれば、より詳細な実験結果を得ることができるものと考える。
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